【獣医師監修】異物誤飲はペット保険で補償対象?予防法、治療費も解説

イヌのケア

ペットの異物誤飲は、思いもよらないタイミングで起こります。さらに、誤飲したものの内容や量によっては命に関わるケースもあります。
大切なペットの命を守るための対策と、異物を誤飲した場合の治療方法及び治療費、異物誤飲はペット保険で補償対象になるのか等を解説致します。

ペットの異物誤飲とは

何らかの原因で、本来口にすべきでないものを飲み込んでしまうことを「異物誤飲」といいます。具体的には、電池やヒモ、針、殺虫剤など食べ物以外のもの、玉ねぎやチョコレートなど、人間が食べても問題がない食べ物でも犬や猫が食べると中毒を起こす可能性がある食べ物などが「異物」に相当します。

異物誤飲はペット保険で補償されるか

ペット保険とは、動物病院に支払う医療費の一部をペット保険会社が補償してくれるサービスです。
補償の対象は、加入している保険会社のプランや内容により異なりますが、ペット保険は「病気やケガに備える」という目的のため、異物誤飲はペット保険の補償対象になります。
ただし、加入しているペット保険の補償の対象が「手術のみ」というプランの場合は、「異物誤飲を通院のみで治療した」というケースは保険の補償対象外になるなどの例外はあります。ペット保険の加入を検討している方を始め、既にペット保険に加入している方もペット保険の補償内容をよく確認しておくことが大切です。

異物誤飲の治療法・治療費

ペットが異物を誤飲してしまった場合、動物病院で行う治療方法と治療費の一例について解説します。

異物誤飲の治療方法

動物病院では、レントゲン検査やエコー検査、状況に応じて血液検査を行います。しかし、飼い主さまの目の前で誤飲した場合はともかく、不在時の異物誤飲の場合や時間が経過している場合はレントゲン検査やエコー検査でわからないケースもあります。
また、治療方法は異物の種類や内容、飲み込んでからの時間の経過と異物がある場所によって異なります。
例えば、
●ケース1:異物が自然に排泄されるまで経過観察する
・中毒を起こす可能性がないものや腸閉塞や消化管穿孔を起こす危険性が無い異物誤飲で
誤飲後時間が経過している
●ケース2:嘔吐を促す薬剤を投与する処置(催吐処置)を行う
・中毒を起こす可能性があるものや閉塞を起こす可能性がある異物の誤飲
・誤飲後すぐ~2時間くらいまで
*催吐処置を行っても吐かない場合もあり
●ケース3:全身麻酔下で内視鏡処置・又は開腹手術が必要
・誤飲した異物が大きいサイズのものや鋭利なものなど、吐かせると危険なものの異物誤飲
●ケース4:開腹手術が必要
・嘔吐や食欲不振が続き、異物誤飲が疑われる場合
などです。
なお、中毒を起こす可能性がある異物を誤飲した場合は、点滴治療や活性炭の投薬などの治療を行います。

異物誤飲の治療費

異物誤飲の際に行う一般的な治療や検査と治療費の一例を以下の表にまとめました。

治療内容 治療費(参考)
レントゲン検査 1枚5,000円~
血液検査 10,000円~20,000円前後
エコー検査 5,000円~
催吐処置 6,000円~
点滴治療(皮下・静脈) 3,000円~
入院治療 5,000円~
内視鏡検査 50,000円~
開腹手術 100.000円~
内服薬(活性炭など) 一日200円~

動物病院での治療費は、法律の規定により一律ではありません。そのため、同じ治療を行っても病院によって治療費は異なりますが、内視鏡検査や開腹手術は非常に高額になることが予想されます。

異物誤飲を防ぐために

異物誤飲は、動物病院の救急外来でも非常に多い症例です。しかし、「ペットは何でも飲み込む可能性がある」という意識を持って対策することで、ある程度異物誤飲を防ぐことが可能です。

異物誤飲の予防対策

異物誤飲の予防対策は

  • 飼育環境を整える
  • 犬や猫にとって危険なものを理解する

という2点が非常に有効です。

飼育環境を整える

ペットの誤飲を防ぐためには飼育環境を整えることが大切です。
具体的には、
飲み込める大きさのものは食べ物以外でも蓋つきのものや棚の中にしまう
⇒特にボールなど丸くて飲み込みやすいものは要注意
人間の服用している薬や殺鼠剤・殺虫剤などはペットのいる場所に置かない
ゴミ箱は蓋つきのものにする
布を食べる癖があるペットの場合はタオルや毛布、洋服を置かないようにする
不在時にはサークルやケージの中で過ごすことができるようにしつけをする
犬の場合は散歩時の拾い食いに注意する
⇒ 普段から「オフ」「離せ」のしつけを行う
おもちゃ等に破損部位がないかどうか日々チェックする
などです。
異物誤飲は、大型犬や、子犬や子猫に多いというイメージがある方もいらっしゃるかも知れません。
恥を忍んで申し上げますが、わたしの愛犬が14歳の時に、お気に入りのコングというゴムのおもちゃにヒビが入っていたので取り換えようとしたところ目の前で半分誤飲し、内視鏡で取りだすという処置をしたという経験があります。「今まで気をつけていたのに、シニアになってなぜ?」と自分にがっかりしたのを覚えています。
その他にも「庭でボール遊びをしていたらいつの間にか無くなっていて半年間胃の中にあった」というシニア犬の症例や「ねこじゃらしの先端を飲み込んで開腹手術をした」という成猫の症例も経験しています。おもちゃが大好きな犬や猫の飼い主さまは、特に注意しましょう。
また、テーブルの上などペットが届かない場所だと思っていても、椅子によじ登ってお菓子や食材を誤食するケースもあります。ペットがいる部屋では食べ物等を放置しないという習慣を身に着けましょう。
また、「ウールサッキング」といって布やタオルなどを食べる習性の猫がいます。ウールサッキングは、若い猫に多いと言われていますが原因がはっきりわからないことが多く、成長しても直らない場合もあります。
しかし、猫の生活環境を見直すと同時に、ストレスを解消する(スキンシップをとる・一緒に遊ぶ・のんびりできる場所を用意するなど)、食事内容を見直す、動物病院を受診し健康上の問題が無いかを確認することをおすすめします。

犬や猫にとって危険なものを理解する

人間の食べ物で、犬や猫が食べると中毒を起こす可能性のあるものをご存知でしょうか?記載したもの以外でも摂取量によっては中毒を起こす可能性がある食べ物も存在しますが、ここでは特に注意が必要な食べ物をご紹介します。
また、誤飲の危険性や命に関わる中毒症状を起こすものについてもお伝えしますのでぜひ参考になさって下さい。

<特に注意が必要な食べ物>

ネギ類(玉ネギ・長ネギ・ニラ・エシャロットなど)
赤血球が破壊されることで、貧血・血尿・下痢嘔吐などの症状が起こる
牛丼などネギ類のエキスが含まれている料理にも注意
ココア・チョコレート
テオブロミンによる中毒で、消化器症状の他、震え、神経症状、けいれんなどが主な症状
カカオが多く含まれている製品はより危険
ブドウ・干しブドウ
腎不全を起こす可能性があり、摂取量によって中毒の強さが異なる
キシリトール
ガムに含まれていることが多く、低血糖を起こす可能性がある

<食道に引っかかる可能性があるもの>

リンゴ、梨などの大きくカットした果物
歯みがきガム、ジャーキーなどの硬いおやつ

<腸閉塞を起こす可能性があるもの>

とうもろこしの芯
桃や大きい梅干しなど果物の種

<消化管を傷つける可能性があるもの>

針・画びょう・焼きとりの串などの鋭利なもの
鶏の骨
ボタン電池

<中毒を起こす可能性があるもの>

殺鼠剤やどの薬剤
ユリ科の植物
⇒猫に致命的な中毒を起こします。
花以外にも葉や茎、花粉、ユリが活けてある花瓶の水を飲むことによって急性の腎不全を起こし死に至ります。
猫を飼っている場合は、ユリ科の植物(見落としがちですが、チューリップもユリ科です)を飾るのはやめましょう。
酒・ビールなどのアルコール類
コップの中に飲みかけの焼酎が入ったまま寝たら、テーブルに登って飼い猫が飲んでいた、という例も実際にありました。テーブルや流しの中にもアルコールが入ったものを置きっぱなしにしない様に注意しましょう。

誤飲に気づいた際の対応

わたしの様に愛犬が目の前でおもちゃを飲み込んだ場合以外にも、

  • 気づいたらあるはずのものが無かった
  • 帰宅後にものが散乱していて何を誤飲したか不明

というケースが考えられます。
いずれの場合でも、自己判断で吐かせる処置は絶対にするべきではありません。特に塩を飲ませて吐かせる処置等は食道炎が起きる可能性もあり、命に関わります。なるべく早く動物病院を受診するか、獣医師に相談しましょう。

異物誤飲した際によくみられる症状は?

誤飲した内容や量、誤飲してから経過した時間等によって症状は異なります。
誤飲直後は無症状な場合が多く、時間の経過とともに

  • 元気消失
  • 食欲不振
  • 嘔吐下痢

などの消化器症状がみられる場合があります。

  • うまく飲み込めず頻繁にえずく
  • 涎をたらす
  • 落ち着かずウロウロする

という症状がみられた場合は、食道に異物が引っかかっている可能性が高く緊急性を要するのですぐに動物病院を受診しましょう。

ペット保険の選び方

ペット保険に対して何を一番重視するかは人によって異なります。
また、ペット保険会社によっては、「ペットの医療費の補償」という本来の目的以外にも

  • 迷子になった時に保険加入者のペットを探すサービス
  • しつけや病気の相談に獣医師が24時間いつでも電話相談を受け付けてくれる

など様々なサービスが付帯しているプランもあります。
この様にペット保険には「安心」を提供してくれる側面もあります。自分とペットに合った保険を選ぶコツは、ペット保険会社の情報を集めて比較検討することが大切です。

ペット保険選びのポイントは?

補償内容が多ければ多いほど、保険会社に支払う保険料は高くなるのが一般的です。そのため、ペット保険を選ぶにあたって優先順位が高いのは、

  • 保険会社に支払う保険料
  • 補償内容

のバランスを考える必要があります。

保険会社に支払う保険料について

保険料は最も安いものでは月に500円~、金額が多いプランでは1万円前後です。保険会社や加入プランによって異なりますが、加入してから終身までずっと同じ保険料ではなく、保険料の見直しがあるのが一般的です。
若い時は安い保険料でも更新の度に保険料が上昇するプランや、ある程度の年齢になったら保険料が一定になるプランなど色々なプランがあります。
年齢が上がるにつれて保険料が高くなり加入条件が厳しくなるのが一般的で、プランによっては加入できなくなる場合もあります。最近ではシニア用(8歳~)のペット保険も増えているので、将来のことも考えて情報を集めておくと安心です。

補償内容について

補償内容は保険会社やプランによって様々で、

  • 病気やケガによる通院や入院を含め手術もすべて補償する
  • 手術に関する治療費のみ補償する
  • 保険会社が補償する割合は30%、50%、70%が多い(90%や100%もある)
  • 1回の手術につき50万円を補償するなど手術に特化している

などがあります。
補償内容を選ぶポイントとしては、何度も通院が必要になる場合も考慮し、万が一の手術の補償に加えて通院治療の補償がしっかりしているプランがお勧めです。前述した異物誤飲の場合も通院と入院・手術の補償があれば安心です。
なお、ペット保険は病気やケガに備えるためのものなので、

  • ワクチン接種やフィラリア予防など予防に関するもの
  • 保険加入以前にかかっていた病気やケガ

については補償対象外のため注意しましょう。
保険会社による補償は無制限ではなく上限(支払限度額または支払限度日数・回数)があります。
また、保険料を低く設定するために、免責金額(ある一定の額までの加入者の自己負担の金額)の設定があるプランがあるので加入前には確認が必要です。

大熊 真穂

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現在複数の動物病院で臨床獣医師として勤務しながら専門知識や経験を活かして各種メディアや個人サイトでライターとして情報を発信している。 ▼ドリトルけいのいぬね...

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